ごきげんよう。現役薬学生のhori(@hori_nichijyou)です。
私は精神疾患系に興味があるということを他の記事でも書かせていただいているのですが、今回のタイトルである睡眠薬については、薬局実習で毎日取り扱っていたので、普通の薬学生よりは詳しいと思います。
睡眠薬の歴史、睡眠薬の分類などについて紹介させていただきます。
睡眠薬の歴史から種類を知る

睡眠薬が初めて登場した時代から現代にいたるまでの歴史を学ぶことで睡眠薬の種類も自然に頭に入ってきやすいと思ったので簡単な年表を書いてみました。
- 1903年:バルビツール酸系睡眠薬の登場
ドイツの化学者エミール・フィッシャーとヨーゼフ・フォン・メーリングによって、バルビタールが初めて合成された。そして、より効果が長いフェノバルビタール(商品名:フェノバール)やアモバルビタール(商品名:イソミタール)、ペントバルビタール(商品名:ラボナ)と合成が続く。これらはいわゆるバルビツール酸系に分類される医薬品ですが、バルビツール酸系が合成される前までは抱水クロラールなどが睡眠薬として使われていたそうです。
- 1950年:非バルビツール酸系睡眠薬が誕生するも、、、
バルビツール酸系の致死性や依存性といった副作用を改良しようと非バルビツール酸系が開発された。サリドマイド(商品名:イソミン)を初めとする非バルビツール酸系は依存や乱用、催奇性の副作用が問題となり市場から消えていった。
- 1960年:睡眠薬の代名詞であるベンゾジアゼピン系睡眠薬の台頭
ポーランド系ユダヤ人の化学者レオ・ヘンリク・スターンバックにより、初めてのベンゾジアゼピン系の医薬品であるクロルジアゼポキシド(商品名:コントール、バランス)が偶然発見される。バルビツール酸系・非バルビツール酸系の危険性が改良されたことにより多く使われ、現代でも多く使われ、全般性不安障害などに用いたりなど汎用されている。
- 1980年:ベンゾジアゼピン骨格を持たないがベンゾジアゼピン系睡眠薬と同様の効果を示す非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が登場
ゾルピデム(商品名:マイスリー)、ゾピクロン(商品名:アモバン)、エスゾピクロン(商品名:ルネスタ)などが開発される。他には海外でザレプロンというものが開発されており、ゾルピデム・ゾピクロン・ザレプロンの3つを合わせてZ薬と呼ばれることもある。
- 2010年:武田薬品工業が開発したメラトニン受容体作動薬である「ロゼレム」を開発
ラメルテオン(商品名:ロゼレム)は従来の睡眠薬のような眠りを誘う薬ではなく、体内時計を調節する作用や体温を低下せる作用により、自然に近い睡眠を誘導する。
- 2014年:MSDによりベルソムラが開発される
スボレキサント(商品名:ベルソムラ)も眠りを誘う薬ではなく、覚醒状態を抑制することによって、自然に近い睡眠を誘導する。
睡眠薬は3種類に分けられる
睡眠薬の歴史のパートでは多くの睡眠薬が出てきた思いますが、睡眠薬は大きく3つのタイプにわけることができます。
①脳の活動を鎮静させる
- バルビツール酸系睡眠薬
- ベンゾジアゼピン系睡眠薬
- 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
上記の3つの睡眠薬は「脳の活動を鎮静させる」作用によって睡眠に誘導しています。
ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、薬を飲んでから体内の薬が半分になるまでの時間(半減期)によって、超短時間型・短時間型・中時間型・長時間型と分類されます。
超短~短時間型は、
寝付けないとき(入眠障害)タイプ
短~中時間型は、
寝てから起きてしまう(中途覚醒)タイプ
中~長時間型は、
まだ寝ている時間なのに起きてしまう(早期覚醒)タイプや寝たのに寝た気がしない(熟眠困難)タイプにそれぞれ用いられます。
豆知識:ほとんどのベンゾジアゼピン系睡眠薬はCYPにより水酸化を受けた後、グルクロン酸抱合を受けますが、ロルメタゼパム(商品名:エバミール、ロラメット)は構造中に水酸基を持つため、主に直接グルクロン酸抱合され排泄されます。
そのため、CYP3A4阻害作用のある薬(イトラコナゾールなど)と併用する場合は、ロルメタゼパムが推奨されます。
豆知識:非ベンゾジアゼピン系には、ゾルピデム(商品名:マイスリー)・ゾピクロン(商品名:アモバン)・エスゾピクロン(商品名:ルネスタ)がありますが、エスゾピクロンは向精神薬ではないので注意!(劇薬でもなく普通薬です)
②睡眠リズムを調整させる
- メラトニン受容体作動薬
この薬は、「睡眠覚醒リズムを調節する」作用によって自然に近い睡眠を誘導します。
このような作用の薬は現在、ラメルテオン(商品名:ロゼレム)しかありません。
豆知識:抗うつ薬を服用している患者さんは睡眠薬も処方されている場合が多いのですが、抗うつ薬であるフルボキサミン(SSRI)はCYP1A2阻害作用を有するため、併用した場合、CYP1A2で代謝されるラメルテオンの血中濃度が高くなってしまうので併用禁忌です。
③脳の覚醒を鎮静させる
- オレキシン受容体拮抗薬
オレキシンという物質がオレキシン受容体に結合すると、ヒスタミン神経系・ノルアドレナリン神経系・ドパミン神経系が活性化されて脳が覚醒状態になります。
逆に結合をできなくすれば、脳が覚醒状態になることを防ぐことができます。
この薬は「脳が覚醒状態にならないようにする」作用によって自然に近い睡眠を誘導します。
豆知識:スボレキサントは主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3A阻害作用のあるクラリスロマイシンやイトラコナゾールと併用してしまうとスボレキサントの血中濃度が高くなってしまうので併用禁忌です。調剤過誤の事例としても非常に多いそうです。
【おまけ】ベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の違い
非常にマニアックなパートになってしまいますが、個人的に実務実習中に気になっていたので気が済むまで調べてみました。笑
薬局実習の時に、高齢者の患者さんにはゾルピデムが処方されていることが多かったので、気になって調べてみました。
ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系のどちらもGABAa受容体のベンゾジアゼピン結合部位に結合しますが、サブタイプへの親和性が異なります。
まずは、それぞれのサブタイプに結合した時の作用を確認してみます。
- ω1受容体に結合すると、催眠・鎮静作用が得られます。⇒転倒リスク低
- ω2受容体に結合すると、筋弛緩作用が得られます。⇒転倒リスク高
ベンゾジアゼピン系睡眠薬に分類される多くの薬は、ω1・ω2受容体の選択性が低く両方に作用してしまうので、筋弛緩作用も得られてしまいます。
そのため、筋弛緩による転倒リスクが上昇してしまいます。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬に分類される多くの薬は、ω1受容体の選択性が高いためほとんど催眠・鎮静作用のみが得られます。
なので、ベンゾジアゼピン系よりは転倒リスクが低くなります。
高齢者への睡眠薬の処方が、超短時間型の中でも非ベンゾジアゼピン系睡眠薬であるゾルピデムが多かった理由はこれではないかなと思います。
そして、他の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬であるゾピクロンやエスゾピクロンの処方がゾルピデムと比較するとやや少なかった理由は単純に苦いからなのではないかと考えました。
(ゾピクロンのS体のみの製剤であるエスゾピクロンも非常に苦いそうです)
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